水中溶接 4. 水中溶接切断を理解するための基礎知識(2)

4.4 金属の変形と破壊

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 金属は他の元素に比べると展性と延性に富みますが、限界はあります。金属の結晶構造には方向性があり、外力によりずれやすい方向があります。この方向が多いものが変形しやすい金属です。最も変形しやすいのは面心立方構造です。次に、体心立方構造、六方最密構造となります。常温で面心立方構造の金属、例えば白金、金、ニッケル、銅、アルミニウムなどが、変形しやすく延びやすい金属です。
 体心立方構造の金属、例えば鉄、クロム、ニオブ、バナジウム、モリブデンなどは、延びにくい金属です。鉄の場合は、鉄は熱いうちに打ての言葉通り、高温のγ鉄(オーステナイト)になると面心立方構造になり、延性に優れた金属となります。六方最密構造、例えばマグネシウム、チタン、コバルトなどは非常に変形しにくく、常温での加工には苦労します。
 金属の内部が規則正しい結晶構造をしており、完全に一つの結晶で構成されている場合を、単結晶と呼びます。実用的な金属は、単結晶がたくさん集まった集合組織となっており、多結晶と呼びます。
 金属の変形は、ミクロ的に見ると単結晶が歪み、ずれが生じることから始まり、ずれの限度を超えたところから破壊します。具体的には、単結晶では、結晶構造のずれは、引っ張り方向に対して斜めにずれるせん断変形になり、ずれ面に生じたミクロな欠陥がつながり破壊に至ります。多結晶の場合には、まず粒形変形が起こり、粒界が耐え切れなくなると破断します。
 金属の変形と破壊挙動は、金属加工では重要な情報です。加工時あるいは実用時に外力(応力)が加わわると金属は変形し、外力が小さい場合には外力がなくなったときに変形が元通りに戻り、許容変形限度を超えた外力が作用すると永久的に変形します。この弾性限界値を知っておく必要があります。弾性は力がなくなったときに元に戻る性質、塑性は歪が残り変形したまま元に戻らない性質です。
 応力は、単位断面積当たりに特定の方向に作用する力のことで、ひずみは元のサイズからの変形量の比で示します。金属製品の設計では、応力と歪との関係を考慮します。製品の使用条件に応じて、金属素材が決定されます。素材の強さはどこまで変形に耐えるのかで決まります。過大な応力が作用すると、最終的には破壊します。応力がかかったときに、弾性変形から塑性変形に変化する点を降伏点と呼びます。降伏点は通常弾性変形がフックの法則からずれて、異様に伸び始める点です。降伏を始めると、弾性変形の間に弾性エネルギとして蓄えられていたエネルギは変形に使用され、加工硬化が始まります。

次ページ  2016.03.12作成 2017.04.03改訂