4.3 合金の特徴
合金は複数種類の金属を溶けあわせたものです。金以外の金属は純金属で存在・利用する例は少なく、多くの元素が入り混じった状態で使われています。鋼(普通鋼、炭素鋼)は、純粋の鉄にわずかの量の炭素が溶込んだもの、特殊鋼、合金鋼は、普通鋼に様々な元素を加え、鋼に特殊な性質を与えたものを指します。
鉄は金属の代表的な材料ですが、通常使用する鋼材には、様々な種類の元素が入っています。代表的な鉄の分類では、内部の炭素量の多寡により分類されます。右の図は、金属内の鉄原子と炭素原子とのイメージを示したものです。炭素原子は鉄原子に比べて小さく隙間に容易に入り込めます。炭素が少ない場合には、鉄本来の金属特性が前面にでて、非常に軟らかく延性展性がはっきりとします。炭素原子は鉄原子の配列の隙間に入り込み、その混入量がある程度多くなると伸び縮みが難しくなります。
鋼とは、鉄の持つ性能(強度、磁性、耐熱性など)を高めた鉄合金を指します。一般に鋼とは、0.3%〜2%の炭素を含んだ鉄合金の総称で、ステンレスや耐熱鋼などは0.3%以下の炭素量でも鋼として扱われます。軟鉄や鋳鉄とあわせて鉄鋼と呼ばれ、鋼でできた材料を鋼材、板状のものを鋼板と呼びます。銑鉄(pig iron)は、高炉や電気炉などで鉄鉱石を還元して取り出した鉄のことです。銑鉄を生産するプロセスのことを製銑と呼び、古くは銑(ずく)と呼ばれていました。
銑鉄の炭素含有量は4.5%程度と高く、硬いけれども衝撃で割れやすいので構造用材料には不向きです。銑鉄の炭素含有量を減らすことを大規模に行うために、1840年頃石炭を用いた反射炉が利用されました。高温の燃焼ガスを煉瓦の天井に当て、その輻射熱と燃焼ガス中に含まれる酸素で炭素を燃焼させて除去する仕組みです。 炭素が抜けると、鉄の融点は上昇し粘度が高くなります。銑鉄の融点が1200℃なのに対して、炭素をほとんど含まない鉄の融点は1500℃以上です。反射炉側面から鉄の棒を差し込み内部を丹念にかき回し、最終的にはその鉄の棒に絡みついた鉄を取り出したものが錬鉄です。韮山の反射炉が世界遺産登録されています。初期の錬鉄はスラグ成分を含み純度は低かったのですが、反射炉の構造と規模の改良により純度の高い錬鉄が得られるようになりました。1889年完成のパリのエッフェル塔をはじめ当時の橋、鉄道レールなどの多くは錬鉄製でした。
錬鉄の生産性は低くて非効率的なため、ヘンリー・ベッセマーによる「底吹き転炉」を使うベッセマー法が開発され、本格的な鋼鉄が作られるようになったことで、錬鉄の時代は終わりを迎えました。
銑鉄は高炉や電気炉で鉄鉱石を還元して生産されます。銑鉄の主用途は製鋼と鋳物であり、製鋼用銑鉄は、転炉や平炉を用いて、炭素の含有量を4%前後から2%以下へ下げる製鋼プロセスを経て鋼が生産されます。炭素含有量4.2〜4.3%の鋳鉄は融点が低く、溶融させて型に流し込む鋳造プロセスに用いられます。また凝固材料は一般的に、凝固収縮に伴う様々な欠陥を生じます。鋳鉄の場合、凝固収縮を黒鉛の晶出が相殺して軽く膨張するといった性質や、アルミニウムと違い比重が重いことによる静水圧による健全効果から理想的鋳造材料ともいえ、巨大構造体への使用されることもまだまだ多いようです。
右図は基準となる金属格子に異種元素が入りこんだ状態です。意図に反して入り込み当初目的を阻害するものが欠陥、特定機能性能の向上を図り意図的に含ませたものが合金です。格子内の一部の元素がなくなったものが原子空孔で、空孔などがあると金属格子がずれ安くなります。小さい元素は格子の内部に入りやすく、大きい元素は元の元素を置換して入り込みます。
合金の場合には、ほぼ大きさの近い元素を元の元素に取り替えたものを置換型固溶体、ある程度小さい元素を格子内部に入り込ませたものを格子間(侵入)型固溶体と呼びます。置換型固溶体では、例えば鉄の体心立方構造と同じ構造のマンガン、モリブデン、ニオブなどを一部の鉄原子と置換し、それらの微妙な原子サイズの違いを利用して固溶型強化をしたり、18金のように面心立方の金に銀を少し置換して固くしたものがあります。一般的に、原子半径が15%以上異なる元素では、置換型固溶はしません。格子間(侵入)型固溶体は、原子半径の小さい炭素、窒素、水素、酸素、ホウ素などが入り込む構造で、格子の構造によって隙間に入り込める量が決まります。侵入型固溶では格子間距離の大きな面心立方構造のγ鉄中には炭素が2%固溶できますが、体心立方構造のα鉄には0.02%しか固溶しません。
規則格子は、置換固溶体を作る時に、2種類の金属原子が規則正しく配列したものです。規則正しい配置は、ランダムな配置より全体のエネルギが低く、整然とした構造になります。しかし、個々の元素は融点や比重など全て異なり、溶融して凝固に至る過程で様々な反応が生じ、規則格子を必ず作れるわけではありません。不純物の局所的な存在や冷却速度の相違により、液体から固体に変わる時に、様々なところで独立に結晶化が始まり、冷却と共にそれらの結晶は大きくなり周囲に広がっていきます。半導体の純度を高めるために溶融・凝固プロセスをはしご状に行い、不純物を徐々に結晶から追い出していくプロセスは、凝固する温度が元素により異なることを利用した典型的な例です。金属間化合物は、母相の結晶構造の中に、母相とは異なる元素の金属原子が規則正しく一定の比率で格子配列した化合物です。合金の中に、母相とはまったく異なる構造や性質の化合物が生まれ、超耐熱合金や磁性材料など多様な新機能材料が作られています。
一般に鉄鋼材料は利用目的に応じて様々な元素を鉄の中に配合し、圧延・冷却過程で特殊な工夫を凝らして(調質)製造されています。このような調質材料は、線維組織(結晶が圧延方向に並んだ組織)が形成されており、強度が大きくなります。水中溶接は、調質された素材を一旦溶かして融合し、それを急速に冷却固化する接合法です。この過程で、金属内の結晶構造や成分組成が大きく変化します。この変化を構造物全体で許容しうる範囲内に如何にして抑えるのかが重要です。
次ページ 2016.3.12作成 2018.12.12改訂