水中溶接 4. 水中溶接切断を理解するための基礎知識(2)

4.2 金属の特徴

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 金属の原子配列構造を考える場合は、原子核と電子のイメージよりも、球もしくは原子核を格子で結ぶイメージの方が理解しやすくなります。個々の金属の特徴を理解するためには、K殻からL,M,・・と続く主殻と電子軌道の副殻の構造及び周期表と最外殻電子軌道の関係が好ましいのですが、ここでは割愛します。周期表と電子の関係は、縦一列が最外殻電子軌道とそこに入る電子個数とが等しいという共通点があります。各元素の電子はエネルギが低い軌道から電子を埋め、内部の電子が最も安定になり、最外殻の電子軌道が最も不安定となります。電子の授受により化学反応が生じ、最外殻電子が占める電子軌道が、元素の持つ重要な化学的性質の決め手となります。電子軌道が同じ位置を占める金属同士は似たような化学的性質を持ちます。
 結晶の性質を理解するためには各原子を格子で結んだモデルが最も理解しやすくなります。各金属はそれぞれ電子軌道に応じて、原子核と自由電子との間に電気的な引力が生じ、その構造で許しうる限りの緻密な構造体を作ろうとします。金属の主な結晶構造は、格子の中央部に原子がある体心立方構造、格子面の中央に原子がある面心立方構造と六角形の形になる六方最密構造の3種類です。最も単純な結晶は、立方体の各頂点に原子を配した単純立方格子です。この場合、原子を等しい半径の球とすると、球の直径は立方格子の軸長に等しくなります。軸長をLと考えると、立方体の体積はL^3となり、球の体積はπL^3/6なので立方体に占める球の体積の比はπ/6=0.523… となります。
 体心立方格子は立方体の各頂点と中心に原子・分子があり、図に示すように、原子をすべて半径の等しい球とすると、球の直径は立方体の対角線の半分に等しくなります。球の体積が立方体体積に占める比は0.68となります。単純立方格子より、体心立方格子の方が密度が高くなります。
 体心立方をとる原子結晶には、次に示す元素があります。
 Li、Na、K、Ti、V、Cr、Fe、Rb、Mo、Cs、Ba、Ta、W
 面心立方格子を持つ原子結晶には以下のような元素があります。この中で、鉄(Fe)は温度により、体心立方にも面心立方にも変化し、これを同素変態とい言います。
Al、Ca、Sc、(Fe)、Ni、Cu、Sr、Rh、Pd、Ag、Pt、Au、Pb
 結晶格子中に、等しい大きさを持つ球を最も密度高く充填する格子構造を最密充填構造と言います。これには二つの充填方法があり、その一つが面心立方格子、もう一つは、図示はしていませんが、六方最密充填構造です。面心立方格子では、球の直径は面対角線の半分に等しく、単位格子中に球が4個入ります。これから、立方体体積に占める球の体積の比は0.74と計算でき、単純立方、体心立方よりも球の充填密度は高くなります。
 一般に固体の金属は右図に示すような規則正しい構造とみなされています。このような剛体球モデルで考えると、金属の四大特徴である、延性、展性、良伝導性及び金属光沢が理解しやすくなります。
 金属各原子の相互の結合は周囲の自由電子群を介しているため、個々の原子間距離が伸びてもその変形に対する抵抗は小さいと思えます。金属結合の構造が延性と展性に大きく寄与します。金属の結晶構造は電子軌道の方向性で決まり、s軌道の電子のみが面心立方構造に関わる金銀銅などが、伸びや曲げが容易となります。自由電子の存在で良伝導性は理解できます。自由電子の動きやすさは、内部の原子核や電子軌道による自由電子動きに対する影響の大きさで決まります。原子半径の小さいものは内部の影響を受けやすく、電子軌道が多数の電子で込み合っている場合にも影響を受けます。電子が動きやすい電子軌道は、最外殻に電子が一つだけの場合です。最外殻に1個だけ存在する電子は、内部の影響を受けにくく、金銀銅アルミニウムがその代表となります。これらの元素は、延性と展性を示しやすい元素と重複します。
 金属光沢は、金属に入射した光が金属内部(深部)に侵入できず、表面近傍から反射するために起こります。金属表面に入射した光の電子波により、金属表面近傍の自由電子はそのエネルギにより加速され電子は振動します。基本的には水面と同じで波のような振動が生じますが、これをプラズマ振動と呼び、その振動数は可視光より高い紫外域の周波数です。このため、金属内部には可視光とそれより長い波長領域の電磁波は浸透できません。木材やプラスチック類は可視光や赤外領域の光を吸収するため、表面温度が高くなりますが、金属ではそれらの光を吸収しないために表面は冷たく感じられます。
 固体と液体は、気体に比べて構成粒子の密度が極めて高いために、凝縮系の物体と位置づけられています。一般的に金属の固体は結晶構造とみなされ、物理的な特性が詳しく掘り下げられています。また、20世紀後半は半導体の半世紀でもあり、結晶に対する探求は目覚しいものがありました。その過程で非晶質・非結晶構造に対しても理解が深まり、液体と非晶質固体を併せて不規則系と捉える研究も加速されました。次節ではある意味不規則系でもある鋼と合金の構造を取り上げます。

次ページ  2016.3.12作成 2019.4.3改訂

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ものと人間の
文化史
 表題は法政大学出版局が出版している百科叢書シリーズで、人と生活とのかかわりから営々として身近なものを便利に使いやすくしていく工夫を考えさせます。最新刊が中江秀雄さんの「鋳物」で、古代から現在までの金属の熱加工技術の変遷をわかりやすく解説されています。