水中溶接 3. 水中溶接切断を理解するための基礎知識

3.6 原子の構造

前ページ

 溶接は全ての産業分野に関係する技術であるため、様々な経歴の人々が従事しています。出身母体により頭の中の常識が異なっており、同じ言葉でも違う意味で受取ることが多々あります。私自身電気系(どちらかと言うと情報系)の出身であるため、しょっちゅう勘違いしていました。経歴が異なっていても共通の理解を図るべく、基礎的な事柄も取り上げておきます。
 まず、原子の構造です。私自身は原子の構造を、中心に陽子と中性子とで構成された原子核があり、その周囲を多数の電子が周回しているイメージで理解しています。原子核は非常に小さくて周囲の電子は雲のように原子核を覆っているけれども、内部はすっからかんというイメージです。金属系や化学系の人々は全体でボール型のイメージを持っているようです。最近少しまじめに基礎から勉強しなおしているので、最近の学術的進歩もさることながら、学生時代には本質的には何も理解していなかったことに気づかされて愕然としています。
 上図に示したように、原子と原子核の大きさには10万倍以上の差があり、原子核を直径1cmの円で描いたとすると、電子が飛び回る空間の直径は約1kmとなります。物理的な大きさのイメージに例えると、御茶ノ水駅構内に直径5cm程度の電球があるとして、それを原子核と考えたら、山手線ぐらいのところが原子の外周のような大きさの感覚です。
 原子核は、正の電荷を持った陽子と電荷を持たない中性子からなり。原子核内の陽子により正の電気を帯びていす。中性子の数は概ね陽子と同じですが、元素により異なった数の中性子を持つことがあります。電子は、1.602×10^-19 C(クーロン)の負の電荷を持つ粒子であり、電子の質量は陽子や中性子の質量の約1/1840と非常に小さく、原子の質量は原子核の質量とほぼ同じです。陽子は正、電子は負ですが、1個の原子には同数の陽子と電子が含まれており、原子全体では電気的に中性です。
 原子に含まれる陽子の数を原子番号と言い、元素により陽子の数は異なるため、原子番号も元素によって異なります。原子に含まれる陽子の数と電子の数は等しいので、原子番号の数が、陽子及び電子の数になります。電子の質量は陽子・中性子の約1/1840と非常に小さいため通常は0とみなし、原子の質量は、原子核中の陽子と中性子の数の和である質量数にほぼ比例します。
 右図に光や電磁波の波長と周波数及びエネルギや温度との関係を示しておきます。基本的に非常に幅広い範囲の数を扱う場合には、指数を用いて対数グラフに表示することが習慣になっています。人の眼が感じとれる400nmから800nmの波長範囲の光を可視光と呼びます。虫類の眼には近紫外域の光にも感度があるように、動物の種類によっては、人とは異なる波長範囲を感じとる眼を持った動物もいます。こうもりのように、超音波域の音で世界を感じる動物もいます。
 20世紀初頭に従来のニュートン力学では取り扱えない領域に直面した物理学は大きな変革を遂げ、量子力学や相対性理論が生み出されました。40年以上も前にそれなりにまじめに勉強はしましたが、簡単で単純な系についてのみの紹介しかなく、ごまかされた感じを持ったことを覚えています。現在でも数値計算でしか解けていない事を知り、当時は計算科学もさほど進化していなかったので、当時の記述の限界を理解しました。
 溶接のアークから出てくる光や、電子ビーム、レーザ溶接などを理解するには、やはり現代物理についてある程度の知識と理解力が必要です。溶接学会などで聞く話は、現象論的には理解は出来ますが、何となく本当かな、実際は少し違うのではと感じています。右図に示した波長と放射強度及びピーク強度の温度などは可視化に必要な基礎データとなります。アーク現象の可視化に手を染めたときに、ある程度まじめに物理学の勉強を再開し最初に手を付けたのが放射にまつわる内容で、背景の人物伝記などもしっかり読み込み、学生時代に何となくしっくりしなかった疑問なども少しづつ解消しました。数式などは比較的単純なのですが、背後の歴史的な文化の流れを知っておくことは理解に役立つと感じています。

次ページ 2016.03.12作成 2017.03.30改訂

全体目次
水中溶接目次
原子核と電子
 私の学生時代には原子核は陽子と中性子とで構成されると習いました。素粒子(物質の元となる粒子と力の元となる粒子)については名前を聞いたことがある程度でした。
 就職後にニュースで素粒子論の発展は眼にする機会はあり、何冊か読書しましたが、内容をきちんと理解するまでには至りませんでした。定年退職をしてそれなりに自由な時間があり、関連書籍も多く出揃っており、少しづつ内容を理解すべく努力しています。