水中溶接 4. 水中溶接切断を理解するための基礎知識(2)

4.5 相変態と合金の構造

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 金属の構造には、原子レベルの結晶構造と顕微鏡観察で見える金属組織の二つの見方があります。結晶構造と金属組織とを結びつける現象が相変態です。鋼の場合には、結晶構造には高温相の面心立方構造のγ鉄であるオーステナイトと、低温相の体心立方構造のα鉄であるフェライト組織、鉄と炭素化合物である斜方晶構造のセメンタイトがあります。鋼の組織には、フェライト組織や焼入れ処理時に生じるマルテンサイト組織、パーライト組織、ベイナイト組織などがあります。結晶構造と組織を結びつけるのが拡散変態、無拡散変態、焼き戻し析出などの相変態で、高温相のオーステナイトから冷却する方法が変態形式を決めています。
 物質の状態を示す金属用語が相です。固相、気相、液相のように使います。合金相とは、複数の金属元素が混ざり合った状態を示します。相には、化学組成と温度と圧力が影響します。一般的に、金属を扱う場合には、圧力は大気圧とし、化学組成と温度とが液相と固相に与える影響を記述します。
 相と条件の関係を示すものが、平衡状態図です。2種類の金属からなる合金を扱う二元系平衡状態図では、横軸に合金の濃度、縦軸に温度をとります。平衡状態図で、液相から固相が出現し始める温度と元素濃度の関係を結んだラインを液相線、完全に固体になる温度を結んだラインが固相線です。液相をL、合金の組織形態が均一の部分をα相、β相などと表します。
 2種類の組成の合金が、一方の合金成分が0-100%まで、どの濃度比の場合にも均一組織に溶け込むものを、全率固溶合金と呼びます。金と銀、ニッケルと銅などがあります。子供の頃の思い出に、「アルキメデスが風呂から裸で飛び出して、ユリイカと叫んだのは、金と銀との比率を確かめる方法がひらめいた」との逸話を読んでも、何がすごいのか全然理解できませんでした。当然のことですが、「金と銀とが均一に溶け込むため、宝飾品に銀を混ぜてごまかせる。」ことができたことを理解できていませんでした。同時に、「2種類の金属成分を混ぜた場合、うまく混ざらないことが多い」などとは思いもつきませんでした。
 共晶反応とは、合金が液相から凝固するとき、液相Lから異なる化学組成と結晶構造の固体αと固相βとが生じてできる反応で、共晶反応でできる組織を共晶組織と呼びます。共晶点付近では、液相から瞬間的にαとβが生成します。初晶線温度以下になると、液相Lと晶出したαもしくはβとが共存する状態がしばらく続きます。共晶点温度まで下がったときに、固相αもしくはβの周りに残った液相Lからできるαとβが晶出する反応が起こります。
 包晶反応は、すでに晶出している初晶と液体が反応して新たな固溶体を作る反応です。包晶反応は、金属Aと金属Bとで金属間化合物を作る場合に現れます。加熱時にはβ固溶体が融点以下で分解し、凝固時にはすでに晶出しているα固溶体(初晶)と液体が直接反応してβ固溶体を作ります。凝固組織は、α固溶体の周りをβ固溶体が包んでいるように見えるため包晶と呼びます。
 右の図は鉄と炭素との二元系平衡状態図で、非常に多くの鋼の組織の情報を含みます。横軸は鉄に含まれる炭素の濃度、縦軸は温度です。平衡状態図では、熱処理のような動的な組織の変化は情報として現れませんが、組織の最終的な落ち着き先を示します。平衡状態図で、液相から固相が出現し始める温度と元素濃度の関係を結んだラインを液相線、完全に固体になる温度を結んだラインが固相線です。
 鋼の共析点では完全なパーライト組織になり、炭素濃度が低いとフェライトが混ざり亜共析鋼と呼ばれます。高いとセメンタイトが析出している過共析鋼と呼ばれます。
 鉄鋼の主要金属組織は、高温で安定組織のオーステナイト、低温での炭素含有量が少ない鉄組織であるフェライト、鋼の特徴的な組織であるパーライト、及び焼入れ組織であるマルテンサイトがあります。

次ページ  2016.03.12作成 2017.04.03改訂