2.2 水中溶接法の分類
溶接技術は、アークなどの高密度熱源を用いて対象物を局所的に溶融して融合し、一体化する効率的な接合技術です。しかし、溶融凝固に伴う急熱・急冷の過程は、通常の鋼構造物(母材)の比較的ゆっくりとした製造過程とは非常に異なる熱履歴過程となり、結果として溶接金属あるいは熱影響部の組織は、母材とは異なる性質を持つことになります。特に水中環境では、周囲の水による冷却、および高熱過程で生じる酸素や水素の溶接金属への侵入、あるいは高圧雰囲気による溶接現象の変化など、大気中の溶接とは異なる要因を多く含んでいます。また、これらは溶接品質へ悪影響を与える原因ともなっています。
陸上で溶接する場合には、溶接材料が湿気を帯びたり錆びたりしないように、注意深く品質管理が行われています。水中で溶接する場合には、より丁寧で注意深い品質管理が必要です。そのために、いろいろな溶接方法が考えられています。
水中溶接の分類法にはいろいろありますが、溶接する環境で分類すると、チャンバなどの覆いを設置して溶接装置や溶接する場所を乾いた状態にする乾式法と、装置が海水に露出した状態で行う湿式法とに分類されます。個々の特徴については、各論で紹介します。
乾式法には、溶接部全体を海上に持ち上げる大気中溶接、溶接部全体を覆って海表面を開口したコファーダム法、完全に密閉した容器で覆って内部圧力を1気圧にする1気圧法、及び水中で溶接部を完全に容器で囲み容器下部の開口部の水深圧力までガスを注入して乾いた状態にするハイパーバリック(圧気)法があります。これらの方法では、溶接構造物に特化して溶接部を覆う容器を作成しなければならず、溶接準備に時間と費用が必要となります。特にハイパーバリック法では、準備段階では溶接装置や溶接部が水中に露出しているため、設置段階から排水作業終了まで、装置が故障しないように注意することが必要となります。造船所のドックなどは、ある意味コファーダム法の典型ですが、浮きドックも含めて造船所の溶接は海表面より下での溶接ではあるものの、一般的には水中溶接とは考えません。
湿式法には、溶接する領域を特殊な工夫で乾いた状態にする局部乾式法と完全に海水中に暴露した状態で行う純湿式法があります。溶接に影響する水分や錆などについての詳細な説明は別途行います。溶融金属周辺のガスに水分が含まれていると、溶接金属には水素が吸収されやすくなります。また、周辺の水による急冷却の影響もあります。如何にして経済的な方法で水の悪影響を少なくするのかが、溶接品質確保の観点で重要です。
それぞれの手法についてどの程度の水深まで溶接が可能かについても右に図示しています。水深の深い領域での1気圧溶接法については、技術的・経済的な困難があり、アイデアだけで、実際には使用されませんでした。
次ページ 2016.3.12作成 2018.6.1改訂