水中溶接 9.その他の溶接

9.4 レーザの特徴

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 レーダ(radar = Radio Detecting And Ranging) とレーザ(laser = Light Amplifi- cation by Stimulated Emission)は紛らわしい言葉です。レーダは無線による位置と距離の検知、レーザは誘導放射による光増幅が、それぞれの直訳になります。レーダもレーザも至るところで話題に上がる言葉となっています。レーザの応用範囲は、光ファイバーなどの情報通信をはじめとして、CDやDVDのデータストレージ、及び医療や工業的な切断・融着など実に広くなっています。普通の光には、様々な波長と位相の波(光)が入り混じっているのに対して、レーザの光では、波長と位相がきっちりとそろっています。
 この違いが重要です。普通の光をレンズで集光する際には、波長(色)が異なるため、光の色により焦点を結ぶ距離が異なり、一点に光が収束することはありません。一方、レーザ光は波長と位相がそろっているために、ぴったりと1箇所で焦点を結びます。普通の光ではエネルギ密度がある程度までしか上がらないのに対して、レーザ光は非常に高いエネルギ密度になります。
 「誘導放射」に関しては、1916年にアインシュタインがその可能性を予言しました。誘導放射とは、ある電子の再結合により放たれた光が、他の電子の再結合の引き金となり、位相のそろった波長の光を次々と発生させていくという現象です。何となく、核の連鎖反応を思い起こしてしまいます。
 1954年にベル研で原子や分子の性質をマイクロ波を使ってスペクトル分析していた、TownesとShawlowらはレーザの元となるメーザ(maser = Microwave Amplification by Stimulated Emission of Radiation)を発明しました。彼らは、マイクロ波ではなく、もっと波長の短い赤外や可視光なら、スペクトル分析によりさらに多くの情報を得られると考え、1958年にガスレーザを具体的に提案しています。この時には「レーザ発振」に必要な合せ鏡の構造なども提案しています。2人は原子や分子の分析を目的としてレーザを発明しましたが、結果的に、情報通信から医療に至るまで、多くの分野に革命をもたらしました。
 TownesとShawlowらの発表以来、多くの研究者がガスレーザの実現に向けて研究開発を行い、1960年に可視光レーザである固体ルビーレーザをMaimanが発明し、すぐあとに、ヘリウムネオンなどを使ったガスレーザが開発されました。雨後の筍のように、様々なレーザの発明がこの後続きました。特に、炭酸ガスレーザなど、高出力レーザの発明が積極的に行われました。
 レーザの発振原理などについては本節では解説しません。この後、炭酸ガスレーザやファイバレーザなどを利用した溶接結果を紹介する際に、必要になればそれらのレーザの特徴を紹介をします。レーザ光の最大の特徴は、「コヒーレント(coherent)」(可干渉性)にあります。コヒーレントを辞書で調べると、「付着する、密着する、凝集する、筋の通った、首尾一貫した」と出ています。コヒーレントな光とは、位相と波長が揃った一方向の振動モードを持った光と考えればよいと思います。このため、以下の特徴があります。
1)直進性が良く、拡散せずに直進
2)信頼性が高く、取扱が容易
3)制御性が良い
4)単色(単一の波長)
5)干渉性・回折性が良好
以上の特徴から、光ビームが絞りやすく、単位断面積当たりのエネルギ密度が高くでき、右図に示すようにアークやプラズマと比較して低い出力でも密度は相当高くなります。
 溶接、切断、蒸発除去加工など金属を熱加工する際には、加工の種類により、用いるべき熱源のエネルギ密度が異なってきます。  右の図に各種熱加工に使われるエネルギ密度と加工に必要な時間との大まかな関係を示します。各種の熱加工に必要な総エネルギ量は一定の値となるため、各種の加工の特徴によりエネルギ密度と加工時間の積も一定になります。
 溶接は金属を一旦溶かして融合させた後、凝固により一体化させる加工法です。溶融金属が必要な量だけきちんと溶けて、不必要に溶接部から蒸発しない(失われない)ことが大切になります。切断は切り離したい部位を、分離に必要なだけの可能な限り少ない量を溶かして吹き飛ばす(除去)ことが大切になります。このため、溶接より必要なエネルギ密度は高くなります。
 炭酸ガスレーザは大出力が特徴であり、産業に幅広く応用されてきました。レーザビームを鏡の反射を利用して加工部位に導入するため、加工姿勢に限界がありました。ファイバレーザの出現でロボットに搭載することが簡単にできるようになり、レーザの利用が一気に増えてきています。右の図は各種レーザの平均出力とパルスピーク出力の大まかな範囲を示します。当然お金さえかければ、各種レーザの出力やパルスピーク出力の範囲は広がります。この図は単なる大まかなイメージです。

次ページ  2016.04.18作成 2016.04.21改定

全体目次
水中溶接目次
1.はじめに
2.水中溶接環境
水中溶接切断を実施する環境の特徴を記述しています。
3.基礎知識1
 気体関連の話題を中心に記述しています。
4.基礎知識2
 固体関連の話題を中心に記述しています。
5.GTA溶接
GTA(Gas Tungsten Arc)溶接の特徴を記述しています。
6.GMA溶接
GMA(Gas Metal Arc)溶接技術の特徴を記述しています。
7.メガフロート
メガフロート(大規模浮体)建造技術の特徴を記述しています。
8.湿式水中溶接
8.1 湿式水中溶接とは
8.2 局所乾式法
8.3 水カーテン法
8.4 メガフロート対応
8.5 水カーテン効果
8.6 現地実証試験
8.7 開先精度
8.8 確性試験結果
8.9 裏波溶接
9.その他の溶接法
9.1 溶接法概略
9.2 ビーム熱源の特徴
9.3 電子ビーム溶接
9.4 レーザの特徴
9.5 レーザ溶接
9.6 ハイブリッド溶接
9.7 リモートレーザ
9.8 水中スタッド溶接
9.9 被覆アーク溶接