7.3 建造工程の検証:プレハブ方式による経済性
メガフロートを短期間で経済的に建設することを目的としプロジェクトを実施したため、各地の造船所などで小形ユニットを作成して現場海域で組立てるプレハブ方式を採用しました。この手法で作成する上での問題点、経済性に関して、詳細に検討しています。
まず、各地の造船所などで小さな区画(ユニット)を作成します。この工程は普通の造船の工程と同じです。船には曲面・曲線が多いのに対して、メガフロートはほとんどが直線構造です。造船所で組上げられたユニットは設置海域にタグボートなどで曳航され、建設海域現地で最終的な接合作業を行います。フェーズ1プロジェクト (1995〜1997FY)では、100m(L)×20m(W)×2m(D)のユニット9個を接合して、300m(L)×60m(W)×2m(D)の浮体を完成させました。
箱型のユニットを作成するのは簡単なのですが、9個のユニットを現場海域で3×3の箱を順次溶接により接合するためには、箱自体の作成精度が大きな問題点としてあげられました。1m程度のものを精密に作製することはそう難しいことではありません。しかし、小さな溶接構造のブロックを順次溶接により接合して大きな箱型ユニットとして作成する過程で、浮体ユニットには熱履歴による変形が積み重なります。また、建造ドックの中で、多数の足場ブロックの上に置かれた状態で精度測定をしても、各地の製造現場での温度も違うため、測定値がどの程度信用できるのかについての情報も未知でした。各地の製造所て作成した複数のユニットを、建設現場に曳航して、現場で組合わせたときに、溶接予定箇所全体としての精度が、溶接施工可能な範囲に収まるのかについても、手探り状態でした。
フェーズ2(1998〜2000FY)では、約300m(L)×60m(W)×3m(D)の浮体3個(滑走路部分)と、フェーズ1で作成した浮体をかさ上げしたエプロン部分の合計4個のユニットを接合して、巨大な浮体式飛行場を建造しました。右の写真は造船ドックで作成が完了したフェーズ2の巨大なユニットです。浮体の右下に少し突き出たはさみのような区画は、係留用の構造物です。愛知県知多市で建造された浮体ユニットは、神奈川県横須賀市まで曳航されました。建造のために曳航するのは、浮体ユニットに過大な力が作用しないよう良好な海象条件を選んで実施しましたが、メガフロート解体時に、解体された小ブロックが、鉄屑として売却されて韓国に曳航される途中に、悪海象により和歌山県の海岸に漂着したことはニュースになりました。
このような巨大な構造物を作り上げるためには、現場での溶接線の全長が非常に長くなります。また、約半分の長さの溶接線は海面下に存在します。構造物は完成時に最も安定になるように設計されますから、建造途中は一般的に不安定な状態となります。一体化が完成するまでの不安定な状態にあり、しかも半分以上の溶接線が海面下で実施と言う、構造物組立て工事を如何にすばやく確実に実施できるかも未知の課題の一つでした。
フェーズ2では、巨大浮体に作用する波浪の影響や構造物に蓄積される地磁気が航空管制にどう影響するのかという飛行場機能について検証実験が主要目的でした。このため、建設ユニットは工期と費用が最も少ない手法が選定され、3個のユニットを工場で建造し、現地で組み立てる方式が採用されました。水中溶接そのものは、フェーズ1で実証した溶接方式の内、上部を先に溶接して内部を密閉構造にした区画に空気を送り込み、内部の海水を排除した状態で溶接する圧気方式が用いられました。
右の写真類は、全長1000mのメガフロートの最終組み立て工事の状況を示します。最後の組立て浮体を施工済みの浮体に引き寄せ、一体化した状況です。
船舶などの溶接では、構造物が溶接による熱で非対称に変形することを防ぐために、構造物の中心線を軸として左右対称に組立てと溶接作業を実施することが普通です。メガフロートの現地建設当時では、建設手順上左右対称に溶接を行うことは不可能でした。同時に、ドック内の溶接では、構造物は指示架台上に設置されており設置点での摩擦により構造物には拘束力が働きます。海上での現地接合では、これらの構造物を拘束する力は事実上全然存在しないために、太陽光や溶接熱により構造物がどの程度熱変形するのかについては、手探りの状況で起こりうる変形を予想しながら工事を進め、変形の影響を極力抑える手法を明らかにしていく状況でした。
陸上での溶接では構造物自体は構造物が置かれている地面との摩擦により拘束されており、局所的な変形と応力蓄積のみが影響します。一方会場での大画家構造物の溶接では、構造物全体への高速はほとんど作用せず、溶接の進展により構造物全体が変形していきます。これらについても有益な知見を得ることが出来ました。
また、所定の検証実験を終了した時点で、海域をプロジェクト実施前の状態の戻すために、最終工程ではメガフロートの解体も実施されました。経済的な観点から水中ガス切断を主に用いて、メガフロートを小型の浮体に切り分けて、個々の浮体を浮き桟橋や海釣り公園などに再利用しています。このうち、清水市に設置した海釣り公園は、福島第一原子力発電所の事故対応として、発電所湾内に係留し汚染排水の貯留タンクとして臨時に用いられています。
このページの映像はメガフロート技術研究組合から提供された写真です。
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